なんでもリスト

気になったことを気ままにまとめます

最強の魔法少女は絶望の深淵から生まれる〜「魔法少女まどか☆マギカ」における永久機関考(2)

魔法少女まどか☆マギカ 1 【完全生産限定版】 [Blu-ray](1)のつづきです)
 さて、キュゥべえの「エントロピーを知ってるかい?」に関連して熱力学第二法則(別名エントロピー増大の法則)が出てきましたが、これを習う前に必ず出てくる熱力学上の最も重要な法則が、熱力学第一法則です。この法則の別名は「エネルギー保存則」。高校の物理でも必須の概念ですから、こちらはもうほとんど説明不要だと思います。要するに「エネルギーのやりとりがあっても、系全体の収支はプラスマイナスゼロにならなければならない」ということですよね。あれ?「魔法少女まどか☆マギカ」中でも、似たようなこと誰かがどこかで言っていませんでした?はい、直近では8話のさやかの遺言の中にもありました。

「希望と絶望のバランスは差し引きゼロだって、いつだってかあんた言ってたよね。今ならそれ、よく解るよ。...」

いやあ、こうして振り返ってみると、だいぶ前からこの作品では感情をエネルギーとして扱う伏線が張られていたことがわかります。
 さらに考察を進めますと、バランスがとれるということは、どうも「希望」のエネルギーと「絶望」のエネルギーはちょうど符号が逆のエネルギーだと考えればよいようです。

「とりわけ最も効率がいいのは、第二次性徴期の少女の、希望と絶望の相転移だ」
「ソウルジェムになった君たちの魂は、燃え尽きてグリーフシードへと変わるその瞬間に、膨大なエネルギーを発生させる。」

という9話のキュゥべえのセリフからすると、その符号が「希望」から「絶望」に切り替わるときに、大きなエネルギーが発生するようですね。で、こういうお題を提示されると、理系の習性としてはどうしても考えてしまうんですよ「逆はどうなのかな?」と。つまり

「希望」→「絶望」の相転移が発熱反応(エネルギーを発生する反応)
ならば、
「絶望」→「希望」の相転移は吸熱反応(エネルギーを吸収する反応)?

のはずです。加えて、

「希望」→「絶望」の相転移 = 「ソウルジェムになった魂が、燃え尽きてグリーフシードへと変わるその瞬間」
ならば、
「絶望」→「希望」の相転移 = 「人間の魂?がソウルジェムに変わる瞬間」?

という推論も成り立ちそうです。
 上記から導き出される

「人間の魂からソウルジェムを生成する過程で外界からエネルギーが吸収される」

という過程は、吸収されたエネルギーがソウルジェム内に蓄積されるということですから、物語内の描写にもかなり符合するんですよね。ちょっと科学的な用語を使えば、「ポテンシャルが上がる」と言います。作中のキュゥべえの説明が正しいなら、その際に吸収するエネルギー量が大きいほど、ソウルジェムも大きくなるようです。またこの過程で、魔法少女の契約の際に願いを叶えるメカニズムも付随的に説明できます。熱力学には「仕事の効率」という概念がありまして、ざっくり言えば、エネルギーを使って何かをするとき、そのエネルギーを100%使い切ることはできない、ということです。キュゥべえはこのようなソウルジェムに蓄えることのできないエネルギーの漏れを使って、魔法少女の願いを叶えているのではないでしょうか。まあ、火力発電所の廃熱を使って温水プールを営業するようなものでしょうかね。
 この推論のもう一つのポイントは、ソウルジェムの生成=魔法少女契約の過程が、「絶望」からの相転移である点です。この作品に通底しているエネルギー保存則の考え方からして、契約前の絶望が深いほど、その結果として得られる希望は大きいことになります。これならさやかの魔法少女としての力が弱かったことも頷けますね。瀕死の状態で契約したマミとは、あるいは食べるものにも欠くほど困窮していた杏子とは、幸せ馬鹿とも自称していたさやかの絶望は比べるべくもなかったのでしょう。
 では、翻ってまどかはどうでしょうか?
 ちょうど一ヶ月ほど前の4話視聴直後に、「魔法少女まどか☆マギカは何故魔法少女ものでなければならなかったか」というエントリで、「この作品の本質はまどかのオーソドックスな成長譚ではないか」という提案をさせていただきました。でもその後のまどかを見ていると、こちらのエントリでも書きましたように、どうもまどか本人はあんまり成長してきているようには見えないんですよね。むしろこちらのエントリでも書いたようにただただ苦悩しているだけのように見えます。9話を見るまでは、以前はてなブックマークでコメントをいただいたように、「群像劇としての側面が強いからまどかはどちらかと言えば狂言回しとして使っているのかな」とも思っていたのですが、このエントリでの推論をしてみてから、わかりました。

まどかがただひたすら絶望していくこと、これこそがこの作品のキモだったのです。

 まどかにとっての魔法少女という存在は、物語を通じてこれでもかと貶められていきます。友人も次々に失っていく。こうして、まどかが絶望すればするほど、契約時にソウルジェムが吸収するエネルギーは大きくなるのです。さらに「魔法少女は永久機関」、回せば回すほどエネルギーを取り出せる魔法の機械です。ならば永久に回し続けたら...?1話アバンの魔女(9話の杏子のセリフから、この魔女がワルプルギスの夜と呼ばれる「超弩級の魔女」であることが判明しました)との戦闘描写の時点から、「魔法少女まどか☆マギカ」という作品は無限ループ説が強く唱えられてきました。ここまでくるとこれはもうほぼ確実だと思います。さらに時間巻き戻し時点でキュゥべえはソウルジェムを回収できないという展開がくる可能性も、ここまでの推論からかなり高いのではないかと思います。

「はっきり言って君が秘めている潜在能力は、理論的にはあり得ない規模のものだ」
「誰かに説明して欲しいのは、僕だって一緒さ」
「君が力を開放すれば、奇跡を起こすどころか、宇宙の法則をねじ曲げることだって可能だろう」
「なぜ君一人だけが、それほどの素質を備えているのか。理由は未だにわからない」

8話のキュゥべえのセリフですが、これでだいぶ理解できるようになった気がしませんか。

「永久に絶望し、永久に回り続けながら、ただひたすらエネルギーを貯め続ける永久機関。」

それが「魔法少女まどか☆マギカ」における「まどかの正体」なのではないでしょうか。
 まどかが貯め込み続けたエネルギーはどうなってしまうのか。そして本当にこれは夢と希望の物語なのか。いよいよ物語は残り3話、ほむらの正体も含めて謎解きまだまだは続きます。

(3/8追記)9話の授業シーン、黒板で解かれているのが東大入試のフィボナッチ数列に関する問題らしいですけど、まどかが無限ループでエネルギーを貯め込み続けている暗喩になってるかも?

魔法少女まどか☆マギカ Blu-ray Disc BOX(完全生産限定版)

魔法少女まどか☆マギカ Blu-ray Disc BOX(完全生産限定版)