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シナリオ構造論から「魔法少女まどか☆マギカ」を読む

魔法少女まどか☆マギカ A3タペストリー 美樹さやか8話をもう一度見直して、最初に見たショックからもだいぶ立ち直ってきました。後提供でも使われていたさやかの遺言カット。すばらしく悲しく、かつかわいらしく描けていましたね。あのワンカットを心の宝物にすればいいんだ、うんそうしよう。
 さて今回は種明かしが満載の回でした。ソウルジェムが濁りきると魔女化するところは大方の予想通り。まあベタですけど、王道に外れ無しですね。それにしてもインパクトがあったのはキュゥべえまわり。名前からして、なんでわざわざ小さいゥなんて使うのだろうと、打ち込む度に変換するのを面倒くさく思っていたのですが、本名がインキュベーターなら合点がいきますね。Incubator [ɪ́ŋkjəbèɪtər ]の第二音節には、cue[kjuː]と違って[u]の音無いですもん。あくまで「まどかたちは発音がおかしいだけで、嘘はついてないもんね」と言い張るのでしょう。憎い奴。この「インキュベーター」の本来の意味は「孵卵器」。卵を孵すために温めておく機械です。いやあ、種明かしされた後からなら、何でも繋がっちゃうものですね。キュゥべえのデザインモチーフは明らかに子宮(=もちろんほ乳類の孵卵器官です。グロいのが大丈夫な人は「卵管」で画像検索してみて下さい)で、卵管を模した耳から垂れた器官が、卵巣に見立てられた少女の体から卵子(=ソウルジェム)を取り出します。その後は「インキュベーター」の二次的な意味である「ベンチャーの起業に関する支援を行う者」として、魔法少女が大人(=魔女)まで成熟して魔女の卵(=グリーフシード)を産み出すまで、彼女たちの業務をあれこれとサポートします。おまけに孵化直前まで穢れをため込んだ魔女の卵も背中から取り込んじゃうときたら、「お前その卵この後どうするんだよ!」と総ツッコミ入れるべきところですよね。さらには incubator という英単語は、 incubus(インキュバス=夢魔)と語源であるラテン語が同じだそうですよ。後述するようにこの作品では「夢オチ?」のシーンが鍵になりそうなので、かなり意味深です。どこかに「我ながらうまいこと名前つけたもんだ。それにしてもお前ら全然気がつかないのな」とほくそ笑んでいる人がいそうな気がします。
 一方で、ほむらの正体についてはまだまだ明かしてはくれないようですね。どこでわかるのかな、杏子の運命は?ということで、ようやくこのエントリの本題です。タイトルは少し広めに取ってしまいましたが、要は「魔法少女まどか☆マギカ」を「ハリウッドスタイルの三幕構成」として解析して、あわよくば今後の展開を予想しちゃおう、というのが今回のお題です。この古代ギリシャの演劇論にルーツを持つ基本中の基本の作劇法である「三幕構成」については、ネット上に良く分かる解説がいくつも公開されていますので、そちらをご参照下さい。お勧めは↓

起承転結と三幕構成(映像製作裏技入門さん)←虚淵氏の「ジェットコースター」発言が妙に納得できます
三幕構成こそすべて(1)(スクリプト・バスターズさん)←こちらのサイトは全ページお勧めです。実例もあるので、今後他作品の鑑賞にも役立ちそう

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でしょうか。とにかく現在のハリウッド映画では、この確立されたセオリーに即していないものはほとんど見つけることができないほどだそうです。重要なポイントだけを抜き出してみると、

  • 第一幕(セットアップ)、第二幕(ディベロップメント)、第三幕(クライマックス&レゾリューション)の三幕構成
  • 2時間ものの作品では、理想的な配分は第一幕(30分)、第二幕(60分)、第三幕(30分)
  • 二幕が始まる直前(25分頃)に第一ターニングポイント、三幕が始まる直前(85分)に第二ターニングポイント。いわば幕ごとの山場。それぞれのポイントで物語が進行方向を変え、幕の切り替えを導く。
  • 物語の中間、第二幕の真ん中にミッドポイント(60分前後)。ターニングポイントよりは小さな変化。
  • 第三幕の終わり頃(115分前後)に物語の最高潮であるクライマックス。その後短くエピローグにあたるレゾリューション。

以上です。実は解析してみると分かるのですが、全編単独シリーズ構成・脚本を務める第一作目ということで、どうも虚淵氏は「魔法少女まどか☆マギカ」をこの構成の基本にかなり忠実に作り上げたみたいなんですよね。つまり構成からして「魔法少女まどか☆マギカ」は王道中の王道らしいのです。おもしろいわけだよ。
 では実際に解析してみましょう。まずは物語中の最初の盛り上がりとなる第一ターニングポイントから。これはもう我々の受けた衝撃の大きさから、簡単にわかりますね。もちろん第一ターニングポイントは3話の「マミの死」です。ちょうど第一幕の理想的な長さ、全体の1/4の地点にも近いですから、第一幕は1〜3話で、「マミ編」と名付けても良さそうです。第二ターニングポイントは、
【関西】『魔法少女まどか☆マギカ』第8話が第3話を超える衝撃展開だったか・・・(やらおんさん)
というタイトルからも明らかなとおり、8話の「さやかの魔女化」でしょう。まだ未放送の9話の内容によっては「魔女化したさやかの死」になる可能性もありますが、ミッドポイントとの対応を考えると、おそらくここで大丈夫です。さやかもしくは杏子の死は、第二幕の終幕イベントにキープしておきましょう。ではミッドポイントは?物語の中間地点ですから、6話の終わりあたりの衝撃ポイントと言えば...はい、おそらく「今のはまずかったよ、まどか」のよりにもよって友達を放り投げちゃったシーンです。これら三つのポイントの共通点は、「魔法少女の死」ではないかと思います。第一ターニングポイントの「マミの死」は、文字通り「魔法少女の存在そのものの死」です。一方で、第二ターニングポイントの「さやかの魔女化」は、ソウルジェムが砕け散ってしまったわけですから「(分離された)魔法少女の魂の死」と捉えてみましょう。そうすると、ミッドポイントの「さやかちゃんごめん!」は、「魔法少女の肉体の死」が明らかになったポイントということになります。おお、なんだか良さそうですね。
 ここまでピッタリ符合してくると、今後の展開予想もこの路線でいけそうな気がしませんか?第二ターニングポイントの位置が8話の終わりですから、第二幕の理想的な長さが全体の1/2であることも考慮すると、第二幕は4〜9話でほぼ間違いないのではないかと思います。第一幕が「マミ編」なら、第二幕はもちろん前にも書いたように「さやか編」でしょう。ただし9話で4話から登場した杏子が退場する場合には、「さやかと杏子編」とする方が適当かもしれません。どちらにせよ、魔女化したさやかと杏子の絡みは、9話で一応の決着をみる可能性がかなり高そうです。
 「マミ編」→「さやか(と杏子)編」とくれば、10〜12話の第三幕は「ほむら(とまどか)編」しか残っていませんね。おそらくヴァルプルギスの夜に対処しながら、徐々にほむらの正体が明かされていく展開になるのではないかと推察します。問題なのは、残っている重要ポイントが第三幕終了間際のクライマックスしかないということです。やはり前にも書いたように物語の主対立構造は

まどかと契約したいキュゥべえ vs まどかの契約を阻止したいほむら

であり、そのことから導かれる物語の主題が、

まどかは契約するか否か

であることから、おそらく最終話(もしくは11話ラスト)に配置されるクライマックスでは、この問いに答えが示される可能性が大です。

  • 契約する(=ほむらの敗北)→まどかの「もう一度やり直させて」の願いで1話の「夢オチ?」シーンにループする。「一筋の光(キタエリ談)」を示すには、例えばリボンを母親に聞かずに自分で選ぶなど、まどかの成長により、違う展開になることを示唆して終幕。世界がまるごと巻き戻るなら、キュゥべえもまた契約が完了せず、勝利できない。
  • 契約しない(=ほむら勝利)→そのままだとハッピーエンドになりそうではあるが、他の重要ポイントがなんらかのかたちで魔法少女の死に絡んでいることから、この場合には「ほむらの誕生にはまどかの契約が必須」などの理由で、結局ほむらも消えるのではなかろうか(=まどか以外全滅エンド)。

 ジェットコースターはアップダウンが激しくてもぐるっと回って最終的にはスタート地点に戻ってくること(またうまいこと言ったのか?)、EDのシルエットの順序が魔法少女の登場順の逆順になっており、まどかが駆ける方向がOPと逆になっていることから、EDは眠るシーンへの巻き戻しを示唆していそうだということで、私個人としては前者の可能性に傾いています。でも、最後のところは私が思いつかない選択肢もまだまだあると思います。虚淵氏はどんな答えを用意してくれたんでしょう?1週間が長いなあ。

(追記)9話のタイトルを調べるために検索していらっしゃる方が多いようなので、次回予告のセリフを、
「馬鹿と思うかもしれないけれど
 あたしはね、本当に助けられないのかどうか
 それを確かめるまで諦めたくない
 『そんなのあたしが許さない』」

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