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崖の上のポニョ

崖の上のポニョ [Blu-ray]いまさらな感もありますが、たまたま観る機会がありましたので、ちょっと感想など。やはりこの作品は「巨匠が描いたゴージャスな動く絵本」ということに尽きるのではないでしょうか。へんにリアルな物語としてとらえてしまうから、突っ込みどころがありすぎて全く作品を楽しめなくなってしまうのではないかと。それが顕著なのが、この作品における海水の扱いなんですね。他の多くの方々同様、私も宗介が海から拾ったポニョをバケツに入れた際、水道水を加えたところでどうしても違和感を感じてしまったのですが、この作品の海水は、もともと塩辛さだとか、べたべたした感じが全く感じられず、むしろ海水の方が水道水と同じ物として描写されているみたいなんですよね。というよりは、ありとあらゆる水は一貫して澄んで清らかなものとして描かれています。普通にリアリティを持たせようとすれば、こんな表現にはならないと思うのですが、この作品が絵本なんだ、と思ってしまえば、これもアリかな、と納得することも出来ます。宮崎監督も、まずは子供に一番に観て欲しいという狙いで作っているそうですから。「トラが木の周りをぐるぐる回ってたら、いつのまにかとけてバターになってしまいました」というノリですね。そういう前提に立つと、荒くれる波が大きな魚のように表現されたり、輝く宝石が文字通りピカピカ光ったり、はねる水しぶきがやはりきらきらしていたりと、「動く絵画」としてまさに芸術の域に達した、新しい表現の数々を純粋に堪能できるようになります。
 さて、これも各所で指摘されているので有名だと思いますが、この作品には死を暗示するモチーフがこれでもかとちりばめられています。古めかしい服をきたボートの家族だとか、海に向かって並べられた車いすなど。産まれ出でた現世はただ死に向かう世界であり、物語終盤で出てくるトンネルが産道を意味している。そこをくぐったポニョは胎児の成長を逆行する形で魚に戻り、リサやらグランマンマーレ、おばあさんたち「母親」が集う海水(=羊水)で満たされたクラゲの子宮で、精子を模した妹たちに祝福されて人間の子供として再生する。だいたいこういう構図になっているのだと思いますが、なんだか蛇足な感じがしますよね。子供だけでなく大人が観ても得る物があるようにこんな感じの意味を持たせたのだと思いますが、それが中途半端になっちゃっているのが、この作品がすんなり受け入れられなくなってしまった理由なのではないかと思います。後付けの印象がぬぐえないんですよね。余計な寓意を持たせずに、開き直っておとぎ話に終始してくれればもっと純粋に楽しめたのに、というのが正直な感想です。