予想外の分量になってきました、とらドラ!考察も、もう終盤です。20話、21話の修学旅行編を前に、まずはクリスマス編での実乃梨についてまとめておきたいと思います。実は私初見の際には実乃梨の壊れ具合にばかり目がいってしまって、あまり感情移入できず、彼女が何を悩んでいるのか今一ぴんときませんでした。15話では実乃梨は自分のことを「傲慢でずるい」と評していますが、今回まとめて見直してみたところでは、アニメで提示されているヒントから読み取れるのは以下のような感じですかね。
まず生徒会長選挙編(14話〜16話)では、
・14話で写真を買う時点では確実に、実乃梨は竜児のことを好きだと自覚している。
・しかし竜児は大河にとって一番必要な人間だということがわかっているので、彼を欲しがることに対して後ろめたさを感じている。
・大学に入ってソフトボール選手になるという夢(見えている物)の実現のためにも、また大河のためにも、自分の恋(見えない物、幽霊)は見ない振りをして押さえ込もうとし、またそれはまだ成功している。
という状態でしたが、16話終わりの大河と会長の乱闘を境に、ほころびが生じます。まず直接的には、大河の行動を目の当たりにし、また生徒手帳の写真のことを知って、大河の好きな相手が北村であるという可能性=自分の竜児との恋が実る可能性が頭をもたげてきたため、見ない振りをしようとしていた恋心に蓋を仕切れなくなっているようです。ここにさらに、亜美が「罪悪感」というキーワードを投げかけます。この言葉でまず、大河に感じていたいわくいいがたい後ろめたさが言語化され、実乃梨の中で知覚できるものとして具体化されます。さらに乱闘中に大河が会長に投げかけていた「自分の心に向き合うことも出来ない弱虫」等の罵りは、竜児とのことを見ない振りをしている実乃梨の心にも突き刺さっていたはずです。ですから、おそらく実乃梨の中では大河に対するものと同時に、亜美の言葉から竜児に対する罪悪感も呼び覚まされているのではないではないかと思われます。21話の亜美のセリフからわかるように、この亜美による「嫌み」は、亜美に対しても罪悪感を残しています。表面的な内容とは全く逆の効果を発揮した、ものすごい破壊力を持つ言葉でしたね。この時点で大河のもう1枚の写真の存在が実乃梨に伝わっていれば、被害はもっと小さかったでしょうに・・・。
このような状態の中、クリスマス編(17話〜19話)冒頭で実乃梨は試合中にエラーをします。ちょっと先の22話のセリフですが、「見えない物(恋愛)に憧れて、気をとられて、見えてる物(自分の夢)を見失う」状況になったわけですね。ここから先は、実乃梨は竜児を徹底して避けるようになります。見直してみると、竜児の誘いを断る口実が全て練習がらみになっているのが印象的ですね。ちゃんと実乃梨が何を選択しようとし、その代償として竜児を拒絶しているのかが伝わってきます。ただいつも実乃梨は本当につらそうな表情をしており、実乃梨の意地と竜児に対する恋心、罪悪感がせめぎ合っていることが見て取れます。極めつけは、観ていてこちらまでつらくなってくる18話の星飾りを直すシーン。涙を流しながら3回繰り返す「高須君」の後には、何が省略されているのでしょうか。「ごめんなさい」なのか「ありがとう」なのか、それとも「好き」なのか。「ただの意地。でもそんなものにこだわって、私は泣くのをやめようって決めた(24話のセリフ)。」シリーズ中実乃梨が涙を流すのは、この場面と24話の亜美の家の2箇所だけです。20話以降の実乃梨としては、この涙を最後にしようと決めたんですね。こんな実乃梨の葛藤に一応の決着をつけるのが、19話で目撃した大河の悲痛な慟哭です。大河の想いを確認したことで、彼女にとっての迷いは無くなった。竜児と目を合わせようとせず、帽子で目頭を隠しながらの告白拒絶は、実乃梨の必死さを良く表しています。
そんなこんなで、ようやく修学旅行編(20話、21話)について。大河も実乃梨も既に自身の選択を終えていますから、必然、ここからは竜児の物語ということになります。20話はまた小ネタが仕組まれまくっていて、分析のしがいがあるというものです。まずは19話まで行ったり来たりしていた竜児のマフラー。この20話以降25話まで大河が巻くことはありません。大河の独り立ちの決意の象徴ですね。冒頭、竜児との窓越しの会話で、「いつまで保つことやら」のセリフに一瞬狼狽する大河は、アバンの拝む姿とあわせて21話最後の独白に切なさを追加してくれます。竜児がクリスマスに実乃梨に渡すはずだった髪飾りは、そのまま大河が応援する竜児の恋の象徴として扱われるようになります。Bパート、喫茶店からの帰路は、これまで常に並んで歩いていた2人とは対照的に、前をいく大河のずっと後ろを竜児が続く構図になっています。既に気持ちに区切りを迎えた大河と、これからの竜児の位置関係そのままですね。また、それまでは竜児が大河を励ます立場だったのに対し、この場面から竜児が励まされる立場に逆転します。この位置関係の暗示は、竜児と実乃梨の間を取り持って大河が駆け抜けていく翌日の登校場面でも再現されることになります。この登校場面が秀逸で、まずいきなり竜児に声を掛けられて振り返る実乃梨が、一瞬浮かない顔をして舌打ちしてくれたりします。「私の気持ちも知らないでこいつは!」って感じでしょうか。そのくせ、竜児の手を直接捕まえて赤面する姿はものすごくかわいらしく、もう一度つかみ直すのが実乃梨の「意地」です。「大河の奴x5くらい」=「私の気持ちも知らないであいつは!」実乃梨の意地をさらに実感できるのが、大河の鞄(=大河の象徴)を2人で持って歩いて行く場面。これはまさにお父さん、お母さん、そしてその間で二人と手をつないで歩く子供の三人家族の構図そのものです。実乃梨の、あくまで大河を挟んで/介してしか竜児とは関わらない、という意思表示でもあります。疑似家族がまた復活してしまった訳で、亜美が「あ〜あ」と評するのも激しく同意です。大河のマンションでの打ち合わせも、また印象的。紅茶を入れる場面で実乃梨が竜児に話す言葉は、「私なんかより大河を選べ」という遠回しの告白拒絶の再現になっています。その後の「ずっとこのままでいたい」という実乃梨の願望と「このままではだめだ」という大河の対照的な意志は、2人のそれぞれの決断をそのまま反映しているわけですが、竜児は先行する大河を象徴する分別されたゴミに気がつき、大河の決断に軍配をあげるわけですね。この時点で、竜児の内心ではすでに大河>実乃梨の選択が行われたことになります。
20話とは対照的に、21話はあまり書くことがありません。主に亜美とのバトルで、実乃梨の内面の種明かしがされていきます。決断は下したと言っても、やはりつらいものはつらい。最後の大河の(不完全な)告白もとても切ないですが、竜児は既に実乃梨のことをあきらめていますし、崖から降りる時点で「大河の手をもう離さない」という決意をしています。結構長いこと気を失ったまま雪に埋もれていたように見えますが、それでたいしたことないなんてことがあるのかちょっと突っ込みたくもなりつつ、3人がそれぞれの決断を下したところで、バレンタインデー編(22話〜23話)へ。
その1はこちら。よろしければ関連記事もご覧下さい。
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