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とらドラ!疑似家族考

とらドラ! サウンドトラック何日か前に、2chとらドラ!スレ(255匹目)にて非常に有意義な議論をすることが出来ました。スレ外に話題を持ち出すのは少々ルール違反のような気もするのですが、過去ログに流してしまうのはちょっと勿体ない気がするのと、2chのレスでは推敲不十分で言いたいことを完全に表現できなかった気がするので、加筆訂正して、自分の考えをこちらにまとめておきます。
 当の議論は

816 名前: 名無しさん@お腹いっぱい。 Mail: sage 投稿日: 2011/01/11(火) 00:25:51 ID: 9VRITd1B
珍説だけど、大河にとって北村はお父さんだったのかもしれない。
亜美は竜児が父親役って言ってるけど、もし北村が女だったら大河は多分母親役のみのりんに甘えるように甘えてる気がする。
目つきが悪すぎる竜児と違って、北村は人間性と同じく見かけもイイ人オーラが出てるから大河が欲しい包容力や愛情を貰える気がしたのではないだろうか。
たまに家に帰ってくるお父さんに恥ずかしくて甘えられなくてモジモジしてるような感じが北村に対する大河の反応に思える。
そう思うと竜児は恋愛対象として最初から相応しかったのかもしれない。

というレスがきっかけで始まったのですが、その過程で見えてきたのは、
「家族の愛を知らずに育った物語序盤の大河は、その欠落を埋めるため、他者と関わるに際して、男性には自身が理想とする想像上の父性を、女性には母性を潜在的に求めてしまい、それらを提供してくれる限られた人物としか人間関係を構築することが出来なかった。」
という構図です。このことからとらドラ!という物語は、大河と竜児の恋模様を描いたラブコメであると同時に、このような就縛から解き放たれて多様な人間関係を構築できるまでになる大河の成長の物語ともとらえることができるのではないか、との考えに至りました。ここでいう父性、母性への潜在的な欲求とは、「こんな陸郎みたいな人間は父親じゃない!誰か代わりに甘えさせてくれる人はいないかな。この人はどうだろう?」といったような、完全に自覚的な、表に見える欲求ではなく、「振り返ってみれば、これまでに好きになった人は皆、包容力のあるいいお父さんタイプが多かった。やっぱり私はお父さんっ子なのかな。」のように、日常生活では好み程度にしか表れない、もっと無自覚で、潜在意識化における欲求を示しています。
 この根拠となるのは「物語序盤から大河が心を開く女性キャラは、当初は実乃梨と泰子だけだった」という事実です。この作品には、大河を子供とした疑似家族が二つ登場しています。一つ目はもちろん、物語の中心となる竜児ー実乃梨ー大河の三人で、これは同時に恋愛の三角関係も兼ねています。もう一つは、大河が入り浸る高須家です。こちらは少し特殊で、本来は泰子の子として位置づけられるべき竜児が、進学問題がこじれたことからも伺えるように、泰子と同格の父親の位置に据えられています(この関係は後述するように最後の駆け落ちで修復されます)。図でまとめてみると、本来は、

大河ー竜児ー実乃梨

と同格であるべき三角関係が、

竜児ー実乃梨
 大河

のように、疑似家族においては大河が子供として一段下がった位置に配置されます。また本来は、

 父ー泰子   陸郎ー母
  竜児  ー  大河

という位置関係にあるべき二家族が、

竜児ー泰子   (陸郎)ー(母)
  (  )  ー   大河

となってしまっているため、

竜児ー泰子   (陸郎)ー(母)
  大河  ー    (  )  

の形にシフトします。いずれの場合も実乃梨と泰子は、大河に対して「愛にあふれ無条件に甘えさせてくれる優しいお母さん」として振る舞い、大河もクリスマス時にサンタクロースに対してそうであったように「よい子」として応えます。これらの二つの疑似家族形成の最も大きな原因が冒頭の大河の潜在的な欲求にあり、特に竜児と実乃梨に関しては、大河の求めを敏感に察知して、二人が積極的に父母を演じた結果であると思うのです(この関係は実乃梨に惚れている竜児にもメリットがあります)。
 上記のような「優しいお母さん」タイプの女性キャラとは対照的に、物語序盤の亜美は、大河とのからみは多いものの、むしろ竜児を挟んで敵対する関係であることが強調されています。その他の主要女子キャラである独神(30)、麻耶、奈々子に至っては、大河との心の交流のようなものはほとんど描写されません。かろうじて、殴り合いの大乱闘を繰り広げた会長との和解にそれが覗きますが、これはまさしく固く閉ざされていた大河の価値観の雪解けに他なりません。
 翻って大河が心を開く男性キャラを見てみます。竜児は二重に疑似家族の父親になっていますから、今更論じるまでもありませんね。一方で北村を考えてみますと、女性キャラ同士の場合には潜在的な「好み」が人間関係に直結しやすいのに対し、異性を相手にした場合には、作品がリアルに寄れば寄るほど、恋愛感情・関係が介在してきても仕方がないと思われます。そういうわけで、大河が北村に惹かれた理由も、北村に父親(のようなもの)を見いだしていた可能性は高いのではないかと思います。大河の理想の母親像を前述した「愛にあふれ無条件に甘えさせてくれる優しいお母さん」とするならば、理想の父親像は「自分の存在を全面的に肯定し、困ったとき、つらいときにはいつも助けてくれる存在」といったところでしょうか。理想の父親像と理想の恋人像の違いが良く分からなくなってきますが、まあそこは永遠のテーマということで誤魔化すことにします。
 このような文脈で見ていくと、終盤大河が自分が理想とする母親とは対極的な存在である亜美にも心を開いたことが明らかになる20話は、物語上で非常に大きな転換点であることがわかります。会長との和解に始まり、その兆候はクリスマス編でも見えていたわけですが、直接的なきっかけは、もちろんクリスマスに自分の甘えを自覚したからでしょう。この時点から、大河は二つの疑似家族構造を自ら解体すべく、動き出します。ところで亜美に関しては、

856 名前: 名無しさん@お腹いっぱい。 Mail: sage 投稿日: 2011/01/11(火) 20:45:11 ID: 0H2quosP
でも、亜美ってめちゃくちゃお母さん役やってないか?
実乃梨は甘えさせすぎだし、竜児も右に同じ
亜美は大河の悪いところも指摘するが、世話も焼く、リアルで親みたいな感じに思えたんだが
(ご本人の後のレスに従い一部修正済み)

というご指摘をいただいています。確かにおっしゃる通りですね。大河にとってこんな亜美を受け入れられるようになったことが、高須本家から帰宅した際に、やはり理想の母親像からかけ離れた実の母親を受け入れる下地になったのでしょう。
 20話で大河は決意を語ったものの、それぞれの疑似家族構造は実際にはなりを潜めただけでしばらく存続します。真の意味でこれらが解体され始まるのは23話のコンピューター室での場面で、まずは竜児ー実乃梨ー大河の疑似家族から手がつけられます。上でも述べたように、本来は親友として同格であるべき実乃梨と大河は、疑似家族関係においては意図的に実乃梨よりも下に大河が位置づけられてきました。親子関係は上下関係か?という議論もあると思いますが、少なくとも物語序盤における大河の価値観は、物語の終盤で大河が到達する同格の親子関係、すなわち親の側も子供と同等に不完全な人間であることを認める考え方とは、相反するものとして扱われています。大河は物語のほとんどにわたって竜児を実乃梨に譲ろうとしています。もちろん竜児から片思いを打ち明けられていたこともありますが、その動機は同格の親友に対する配慮というよりは、むしろ「甘えさせてくれる優しいお母さん」役を実乃梨に演じさせている「良い子」役の大河からの代償としての側面が強かったと想像されます(コンピューター室でうろたえて発せられたセリフからも、そのあたりのニュアンスが伺えます)。このようないびつな上下関係を最終的に拒絶し、一撃で破壊したのが、「ふざけんな!」から始まる実乃梨の感動的な心の爆発だったのではないでしょうか。実乃梨の側から強烈な拒絶が発せられたのに対して、大河の側からの返答は、実は物語中では明確には描写されていません。素直に竜児と向き合うようになった変化が、実乃梨の言葉を受け入れたことを間接的に示しているだけです。
 次に行われる高須家側の疑似家族解体に関しては、次のようなよくまとまったレスをいただいています。

833 名前: 名無しさん@お腹いっぱい。 Mail: sage 投稿日: 2011/01/11(火) 01:09:58 ID: DnN/TSk1
>>828
大河は恋人になることで竜児をみのりんから取っちゃう心配ばっかりしていたけど、実は本当に取っちゃったのはやっちゃんからなんだよね。
竜児とやっちゃんは2人の関係を安定させるために、お互い夫婦的なところがあるのを上手く利用してたわけだし、だから子供として可愛がってほしい大河にとって居心地がよかった。
だから大河が恋人として、文字通りやっちゃんのところから竜児を連れ去ったとき、やっちゃんが不二子ちゃんよろしく、捨てられる前に捨ててやるという、それでも親か的行動に出てしまう。
そのあと、関係は完全に親子として修復されるけど、こうなると大河としては、以前のようには高須家に行けなくなっちゃたのかもな。いくら親公認カップルでも。

上述の図で言えば、

竜児ー泰子
  大河

の構図の中で、進路を巡る母子の諍いから高須本家における泰子の母親としての地位の再獲得を経て、竜児と泰子の関係が、

泰子
竜児 (ー) 大河

の形でまず修復されるわけです。
 母子関係から優先的に解体された(泰子は母親のままですが、「子供みたい」という大河のセリフに見られるように、欠点も併せ持つ一個の人格としての母親像を獲得しています)大河を含む二つの疑似家族構造も、最後に残るのは二重に父親を演じてきた竜児と大河の関係です。実の母親家に行って自分の家族関係を再構築するという大河の決意は、恋愛関係だけを追っていては脈略のない唐突な行動にも感じられてしまいますが、疑似家族関係に注目すれば、竜児をすがるべき父親から対等な恋人にランク替えすることがどうしても必要であり、やはり大河にとって避けられない選択だったことがわかります。一方で、同じことは竜児の側にもあてはまります。大河を送り出した1年間は、竜児にとっても子離れするために必要な期間だったと考えれば、黙って拳を握って耐えている姿が、なんだか娘を嫁に出した父親みたいに見えてきたりもします。またこの期間で竜児も父親役からの脱却に成功したからこそ、再会して一番に、しかし対等な恋人同士として初めて「好きだ」と大河に告げることができたのでしょう。
 細かい描写、セリフなどは再確認したりしていないので、独りよがりな部分もあるかもしれません。また今回はアニメ版のみによっていますが、原作ではまた違った描写があるかもしれません。ぜひみなさまのご意見もお聞かせ下さい。