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とらドラ!(その4)

とらドラ! Scene8 (初回限定版) [DVD]ラストスパートがんばります(その1はこちら)。バレンタインデー編(22話、23話)のAパートは、竜児の心情をそのまま表すような、この作品としては珍しいどんよりした空から始まります。ここまでの話で登場人物それぞれの恋愛がらみの決断は済んでいますから、あとは向きが少しずれてしまっているベクトルをつなぐ作業が残っているだけです。自販機前で実乃梨が自身の決意を言葉にしたりもしますが、その他の大きな心情変化はほとんど出てきません。シリーズ全体の山場であるコンピューター室の場面まで、メロメロになってしまった竜児をにやにや(又はいらいら)しながら、物語の流れに身を任せて鑑賞しましょう。

 このエピソードで1つ注意しておくべきは、唐突すぎるとも言われがちな最終エピソードでの駆け落ちに向けた伏線でしょう。少し時系列を確認してみますと、ケーキ屋主人の「明日、明後日とバレンタインデーでかき入れ時なのに」という23話のセリフから、2人がケーキ屋でバイトをしたのは2日間であったことがわかります。これに帰宅当日とやっちゃんが倒れた夜を併せると、大河が戻ってきてからバレンタインデー当日に母親が迎えに来るまで、数日しかなかったことが伺えます。22話で大河が戻ってきた時点で、彼女が母親に引き取られて転校することはほとんど既定路線だった、というのは深読みでしょうか。もちろん24話の大河の母のセリフから、大河本人は抵抗しているようです。帰ってきた大河がマンションの鍵を持っていなかったのは、「無くした」という本編中のセリフとは裏腹に、実際には鍵は母親が持っていて、大河はほとんど家出同然でマンションに戻ってきた可能性も完全には否定しきれません。しかしながら、大河の父からの金銭的援助を見込めなくなった今では、母の申し出を蹴って一人暮らしを続けることは難しい。こう考えると、大河が進路調査票を提出しなかったこともうなずけます。この進路調査票は、3年次のクラス分けを行うためのものだそうですから、この学校では進級しない大河は提出する必要がないのです(もちろん、この時点でこのことは、学校ではまだ大河しか知りません)。亜美に実乃梨との仲直りを促していることなども含めて、この期間の大河の言動は、すぐ近くに迫った別れを意識したもののように見えます。こんな前提で見てみると、大河が4人に贈ろうとしているチョコレートには、彼女のセリフ以上の想いが込められているように見えてこないでしょうか。

 ぞくっとするほどの堀江由衣の熱演と祐作、亜美の素敵なアシストにひきつづき、最終エピソード家族の再生編(24話、25話)です。竜児が決意を表明した瞬間の実乃梨の表情とか、ジャイアントさらばパンチとか、切ないシーンが続きますね。新OPでも使われていた疾走する実乃梨とその熱い告白に感動しつつ、でもこれだけだと実乃梨と一緒に竜児も追いかけてきたことは大河には伝わっていないんじゃないかなあ、などとちょっと突っ込みたくもなってしまいます。バイトの場面では、はにかむ2人ににやにやが止まりません。「逃げそうになったら捕まえて」のセリフに併せて、一見して靴を片方しか履いていない様に見える大河の足下を描写するのがおしゃれです。

 この後が問題のW親子げんかのシーン。それぞれ別の親子をそっちのけで口論を始めてしまうのは、やっぱりちょっと唐突感が否めないです。少し詰め込み過ぎだったのでは・・・。その後の橋のシーンでも「絶対死ぬだろ」とか「防水携帯か?」と突っ込みたくなってしまいますが、にやにやが止まらないので全部許可です。

 亜美や実乃梨に共感しつつ、2人はなんちゃって駆け落ちへ。さて、今回の最終エピソード、「家族の再生編」と呼んでみました。これは他のサイト様で家族の視点から論評されることが多かったので(おそらく原作準拠?私は未読なのでわかりません)、便宜上このように表記してみたのですが、アニメだけを見た限りの私の印象では、このエピソードは竜児と大河の家族の問題というよりも、「大人とは何か」という主題に重点を置いているように思えます。それではこの物語における「大人になる」とはなにか。登場人物によって少しずつ違った形で表現されていますが、おおまかに「何か足りないところがあっても、ありのままの自分を受け入れ、また自分を誇りに思えるよう前を向いて行動できるようになること」といったところでしょうか。この物語の登場人物には「完全無欠な大人」は皆無であり、泰子を初めとして、一人娘を失ったその両親、大河の両親、さらには独身(30)と、いずれも何かを欠いた人物として描写されています。このことが重要なポイントではないかと思うのです。

 まず竜児・泰子に注目すると、24話終盤の竜児の印象的なセリフに、「逃げていては誕生日が来ても大人にはなれない」があります。竜児と大河がとろうとした駆け落ちという選択は、奇しくも泰子が竜児を身ごもった際にとった選択とぴったり重なっています。しかし、泰子は18年前に本当に逃げてしまったために大人になりきれず、そのため、今また竜児との衝突するに際しても、逃げることしかできませんでした。このことに竜児は気づき、自分は泰子と真っ直ぐに対面し、また同時に泰子にも大人になるチャンスをもう一度もたらすことができる手段を選択します。この目論見はまんまとはまり、泰子は自身の両親と直面し、竜児を「元気ででっかく育てた」ことを誇れるようになることで、遅ればせながら「大人」になることができました。

 大河の視点では、まずは泰子、ついでは自分の母親に関して、どちらも「子供みたい」だということに気づいていきます。そうすることによって大河は、誰でも「へっぽこくて頼りない」のであり、自分に自信をもつかどうかは自分次第だ、ということを悟り、自らの意志で一歩を踏み出します。そこで効果的に使われるのが、例の竜児のマフラー。19話のクリスマス以来大河が巻くことありませんでしたが、最終話の高須実家を発つ場面では、久しぶりに大河に巻かれているのを発見することが出来ます。しかしながらこれもつかの間、自分の力で変わろうという意志のもと、大河は書き置きと共に、このマフラーもマンションに残して去っていくのです。実はこのマフラー、その巻き方にも込められている深い意味がありました。後ろを帯のように結ぶ特徴的な大河のマフラーの巻き方、マフラーの持ち主こそ本編中ではいったりきたりしていましたが、竜児が自分でこの巻き方をするのは、最終話Bパート最後のシーン、2話でとらドラが並び立った裏庭に1人想いをはせる竜児が、本編では最初で最後なのだそうです。「大河巻き マフラー」で検索された方が立ち寄ってくださったおかげで気がついたこちらのサイトを読んで、まさに目からウロコがおちる思いでした。離れていても見守ろうとする竜児の想いを本当によく表していますね。この結び方自体は特徴的だな、と気づいてはいたのですが、新OPで毎回見慣れていたので、うっかりしていました・・・。

 この最終話には他にも、シリーズ冒頭と美しすぎるほど対応する描写が、これでもかと詰め込められています。例えばアバンの寄り添う2羽のスズメ。これはシリーズを通してカップルを象徴していましたね。2話では、大河が朝食をとりにこなくなった朝に、ご丁寧にスズメのいない電線が描写されたりしていました。最終話では、星飾りを探す亜美と竜児の体育倉庫でのシーンでも、窓にシルエットが登場しています。でもこの場面の2羽はどちらも飛んでおり、1羽は窓の上、もう1羽は横へ消えていきます。寄り添う恋人ではなく、友人として別々の道を歩む2人を表しているのでしょうか。いろいろな意味で身もだえしたくなる大河と竜児のキスシーン。
2chのとらドラ!アンチスレで見たこのレスも感心しました。

10 名前: 名無しさん@お腹いっぱい。 Mail: sage 投稿日: 2010/02/05(金) 12:08:56 ID: BSWrYz0V
季刊S読んだけど、内容濃いしコンテとか原画もいっぱい載ってた
アニメならではの表現って部分が多く語られてて面白かったわ
最終回のキスシーンとかなるほどね〜と
>大河は竜児の唇を見て「さかむけてキスしたら痛そう」と言い、
>一瞬だけ口がついた後も「がさがさして干からびて不毛の大地」と表現する。
>そしてしっかりとキスをした後のシーンでは、二人の唇は濡れて光っているように描かれる。
言わば二人の唇は、一人でいると乾いて不毛の大地だが、
重なって一緒になれば潤い、不毛ではなく何かを生み出すようなものとなるうんぬん

Cパートは、モノローグもロッカーもセーラ服もデレて融けそうな大河も、どれをとってもとにかくすばらしすぎます。もう何も書けません。本当にいい作品を創り上げたスタッフ全員に最大限の賞賛と感謝を贈りたいです。

 BD-BOX早く出ませんかね・・・。

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